中国の伝統蒸留酒「白酒」と焼酎

皆さんは「白酒 パイチュウ」というお酒をご存知でしょうか。「白酒」は中国の伝統的な蒸留酒で、日本の本格焼酎のような立ち位置で親しまれています。中国でも「焼酎」という言葉は使われているそうですが、一般的には白酒やウイスキーなど広く「蒸留酒」を意味する言葉として使われています。今回は伝統的な蒸留酒としての中国の「白酒」の、製法や特徴、日本の蒸留酒「焼酎」との違いや共通点についてご紹介します。


白酒の種類と分類

 日本の焼酎は主に①原料(芋、米、麦など)、②麹(白麹、黒麹、黄麹)、③蒸留方法(単式蒸留、連続式蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留)の違いによって香りや味わいなどが異なります。

 対して中国の白酒は①原料、②麹、そして③香型によって分類されています。種類に関しては大きく3つに分けられ、大曲酒(たいきょくしゅ)、小曲酒(しょうきょくしゅ)、フスマ曲酒があります。この「曲(きょく)」という字は「麹」のことで、それぞれ大曲、小曲、フスマ曲という麹を使用して白酒がつくられており、曲の種類、原料、発酵方法の違いによって様々な香りの特徴(香型)が出来上がるのです。



白酒の原料・製法別による分類
参考:花井四郎 1992『黄土に生まれた酒 中国酒、その技術と歴史』東方選書
   表は文献の内容を元に作成

 

①原料による分類

 日本の焼酎は芋・米・麦が主要な原料ですが、中国の白酒、特に大曲酒では高粱(コウリャン、もろこし)と呼ばれる穀物が主原料として使われており、大曲酒は別名「高粱酒」(こうりゃんしゅ、こうりょうしゅ)とも言います。高粱は日本でほとんど栽培されていないためあまり馴染みがないかもしれませんが、実は小麦、稲、トウモロコシ、大麦に次いで世界で5番目に多く生産されている穀物です。そして高粱含め、米、麦、トウモロコシ、蕎麦などの穀物類が大曲酒や小曲酒の原料として使われます。

 また穀類以外の原料としては、甘藷(さつまいも)が使われています。甘藷は高粱などの穀物よりも澱粉の利益率が高くより多くのアルコールをつくることができるため、大量生産向け白酒の製造で使用されます。


②麹による分類

 皆さんは日本の酒造りに関する「一麹、二酛、三造り」(いちこうじ、にもと、さんつくり)という言葉をご存知でしょうか。これは「一番に麹、二番目に醪(もろみ)、三番目に仕込みが大事」という意味で、麹は酒造りにおける基礎であり、お酒の出来に関わる最も重要な要素であることを謳っています。そして中国の酒造りでも「曲は骨、原料は肉、水は血」ということわざがあり、曲(麹)が酒造りにおいて最も重視されていることがわかります。

 そんな中国の曲(麹)は大曲(たいきょく)、小曲(しょうきょく)、フスマ曲の3つがあります。

 大曲は大麦、小麦、エンドウ等を混ぜ合わせて餅状や塊状固めた麹で、クモノスカビやケカビ、麹カビ、紅麹などのカビ類、酵母、細菌類が十数種類含まれています。そのためそれぞれの微生物が香りの元となるエステル成分を生成し、複雑で濃厚な風味の大曲酒をつくり出すのです。

 小曲は主原料に薬草を添加してつくられ、大曲に比べて優雅でおとなしい香りが特徴であるとされています。

 そしてフスマ曲はフスマ(小麦を製造するときの副産物)と蒸留粕、籾殻を混ぜて蒸煮、殺菌したものに黒麹カビを散布してつくる麹です。大曲や小曲はつくるのに1,2ヶ月を要するのに対し、フスマ麹は2,3日でつくられます。そのため工程の短縮とコストの削減をすることができ、大衆向け・大量生産の安い白酒の製造に多く用いられているそうです。


③香型による分類

麹による分類で述べたように中国の曲(麹)には複数の微生物が含まれており、生成されるエステル香の多様性から、他の蒸留酒と比べて香り豊かであることが白酒の特徴です。この香型は大きく5つの型に分けられており、どのような香りがする白酒であるかを大まかに把握するための指標となっています。

(Ⅰ)濃厚型(のうこうがた)…特有の濃厚な風味をもち、白酒の正統派と呼ばれている。この酒は発酵している細菌が生み出すエステルの香り成分の中でもカプロン酸エチルが多く含まれており、日本酒の吟醸香に似た、リンゴやバナナ、パイナップルが合わさったような濃厚な香りがする。

(Ⅱ)醤香型(しょうこうがた)…醤油の香りのする白酒で、主成分はまだ確定されていない。醤香型白酒で代表的なのは貴州省の「茅台酒(まおたいしゅ)」で、これにちなんで醤香型はしばしば茅型(まおがた)、茅香型(まおしゃんがた)とも呼ばれる。

(Ⅲ)清香型(せいこうがた)…中国の北方地方で生産されている白酒。香り成分として酢酸エチルが多く含まれ、梨の様なの香りが特徴。

(Ⅳ)米香型(べいこうがた)…中国の南方地方で生産されている白酒。香気成分の主体は乳酸エチルとフェニールエチルアルコール。乳酸エチルは青草の香り、フェニールエチルアルコールは薔薇の艶やかな香りに例えられる。華やかな香りと喉越しの爽やかさが特徴。

(Ⅴ)兼香型(けんこうがた)…これまでの4香型の香味を2種類以上含む白酒で、コウリャン(もろこし)に小曲を加え発酵させる。大曲酒と小曲酒を混合するので、香味ともにバランスの取れた酒。代表的な白酒に薫酒(とうしゅ)、西鳳酒がある。

参考:小川喜八郎, 中島勝美 『本格焼酎の来た道 アジアの蒸留酒の歴史と文化』金羊社


実際の白酒の印象は?

 上記のように白酒は①原料、②麹、③香型の違いによって分類されますが、実際にそのような白酒の特徴は判別できるのでしょうか?

 そこで今回は筆者が数年前に中国で購入した白酒を開封して飲んでみました!!

西安(シーアン)で購入した西鳳酒
  

白酒の裏ラベル
  
 今回飲んでみたのは中国の陝西省、西安市(シーアン)という都市で購入した西鳳酒(シーフェンチュウ)という白酒で、分類としては大曲酒にあたります。裏ラベルを確認してみると大曲酒の主原料である高粱、大麦、小麦、豌豆(エンドウ豆)がしっかり記載されていました。そして白酒特有の「香型」は「绵柔凤香型」とかかれています。「綿が柔らかい鳳凰の香り」(?)という直訳では実際の香りが想像できませんが、調べてみるとこれは「清香型」や「兼香型」に属しているようです。
 実際に飲んでみると、青リンゴのような爽やかでフルーティーな香りと、日本酒のようなお米の甘さ、そしてほんの少しヨーグルトやチーズのような酪酸の風味が感じられました。香りを嗅いで、口に含み、そして喉を通るまで、それぞれで違った味わいを楽しめるのはワインを飲んでいる感覚に近いかもしれません。このように白酒は多種多様な微生物がつくりだす複雑な香りを楽しめる蒸留酒でした。

中国の白酒と日本の本格焼酎を比較

 ここまで白酒について詳しく説明してきましたが、同じアジア圏、同じ蒸留酒でも、日本の焼酎との違いがいくつか見受けられました。最後にそれぞれの原料や香りなどの特徴を簡単にまとめてみたいと思います。

「原料」
白 酒 ・・・高粱(モロコシ)、麦、エンドウ、米、甘藷、薬草、トウモロコシなど
本格焼酎・・・甘藷、米、麦、黒糖、蕎麦など規定された約50種類の食物
「使用される微生物」
白 酒 ・・・クモノスカビや麹カビなどのカビ類、酵母、細菌類
本格焼酎・・・黒麹、白麹、黄麹などの麹カビ、酵母
「発酵」
白 酒 ・・・固体発酵、半固体発酵、液体発酵
本格焼酎・・・主に液体発酵
「アルコール度数」
白 酒 ・・・38度~65度(65度以上のものも有り)
本格焼酎・・・20度・25度~44度
「香りの特徴」
白 酒 ・・・数十種類の香気成分が複雑に交じり合って芳醇、薫り高い
本格焼酎・・・原料(芋、米、麦など)の風味をしっかりと感じられる

 以上のように製造技術的な面でいうと原料や発酵の違いが見られます。また実際に飲み比べたりすると、アルコール度数や香りの違いが分かりやすく感じられるかもしれません。

 また共通点としては、白酒も本格焼酎もやはり「麹」や「酵母」が大変重要であるということです。アジアの大地が育んできたマクロな世界の生き物が織りなす、繊細で奇跡的な香りのストーリーは、同じ蒸留酒のウイスキーやテキーラにはない魅力の一つではないでしょうか。素晴らしい風味の白酒や焼酎に出会った際は是非、小さな麹や酵母の大きな力を感じながら楽しんでいただきたいです。